私の周りの起業人・フリーランス③

今回紹介する方は、ITベンチャーのパイオニアと尊敬する私の恩師です。

「起業に至るまでの経緯を伺いたい」と問いかけた私に、「クランボルツという心理学者が提唱した「計画的偶発性理論」を知っているか?」と返されました。

私は知らなかったのですが、「個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定される」といった考え方で「振り返ると、起業も含め自分の人生はこの理論を証明するようなものだった」と過去を思い出しながら語ってくれました。

学生時代は高校、大学と電気工学を学びます。
社会に出たのは高校卒業後、大学は夜間(二部)に通いながら、自動車のスイッチメーカーに就職します。
大学4年生の時に仕事を辞め、アメリカ・ロサンゼルスへ、1か月間の短期語学研修に行きました。
ここで、後に一緒に起業をすることとなる友人に出会い、意気投合します。

大学卒業後に就職したのは、なんとペンキ屋さんでした。
親族が経営する会社で後継ぎとして期待されての入社だったようです。
修行の甲斐あって、職人5~6人をまとめて現場を任されるまでになります。

しかし、「このままペンキ職人を続けてよいのか?」と考えるようになり、折込広告で産業ロボットの電気制御を設計、開発する仕事を見つけ転職します。

転職先の会社では、次世代に向けての「コンピュータ制御のロボット」の研究、開発を任されます。
しかし、コンピュータは趣味で楽しんでいた程度だったため、この時に初めて本格的に勉強したのだそうです。
大学の研究室ともタイアップし、1年がかりで完成させたNCコントローラの試作品は、数々の展示会や見本市で発表。
すぐに製品化されて、会社の商品ラインナップを一変させました。

そんな折、ロサンゼルスで意気投合した友人から連絡があり、約10年ぶりに再会します。

そして、当時米国ではじまっていたコンピュータネットワークを使用した電子掲示板システム(BBS)の話題で盛り上がり、「コンピュータはこれからは通信の時代になる」と再び意気投合します。

コンピュータネットワークの環境を構築するためには、電話回線を接続するための通信装置を制御する必要がありましたが、NCコントローラと同じ通信制御方式のため「直ぐに試してみよう!」ということになりました。

中古の通信装置を購入し、制御プログラムを作成。
自前のパソコン同士を接続して文字のやりとりができることを確認すると、米国商用BBSへ加入。
ニュースなどの情報取得や電子メール、電子会議を体験します。

「この新しいサービスを日本でもっと普及させたい」と思い、サービス提供をしている米国の会社に連絡し代理店契約の交渉を始めます。

一個人からの交渉ですし、言葉も片言でなかなかと取り合ってもらえなかったようですが、通訳も交えて交渉を重ねようやく契約に漕ぎつけます。
そして、契約締結のため会社を設立し、副社長として開発部門を担当することになりました。

日本国内に米国商用BBSの代理店ができたというニュースは日経新聞の1面で紹介され、多くの商社や広告代理店からも問い合わせが入るようになります。

この頃から国内でも次第に独自のパソコン通信サービス運営の動きが活発化し、大手業者が商用サービスに乗り出すと、多くの相談や技術的なサポートの依頼が来るようになりました。
そんな中、のちに日本最多の利用者を擁することとなるパソコン通信サービス会社とは、コンサルタント契約を結び、企画段階から参画します。

また開発部門では、本社ー支社間、本店ー支店間などで情報共有するための、パソコン通信サーバーと接続用端末ソフトを開発し、大手企業を中心に導入が始まります。

この頃から、社員、アルバイトを少しづつ雇い入れます。
パソコンが一般的にはまだまだ普及していない時代ですから、集まってくるのは癖のある人材が多かったようです。
こうしたメンバーをまとめ上げるのに、ペンキ職人時代の経験は大いに役立ったそうです。

会社設立から4年後、コンサルティング部門とシステム開発部門を分社化。
システム開発部門をコンピュータの通信を主体としたシステム開発とネットワーク構築を行う会社として独立させ社長に就任しました。

・短期語学研修での共同起業者との出会いと再会
・コンピュータの通信制御との出会い
・米国BBS代理店になったことで繋がった多くの起業、個人

「これらの出来事が、起業とその後の会社の成長に大きく関与していたと実感する。」こう締めくくってくれました。

最後に「起業を目指す人にアドバイスをするとしたら」と尋ねました。
「流れに逆らってはいけない。」
「いつもアンテナを張って、流れを捕まえるといい方向に行ける。」

なるほど「計画的偶発性理論」を噛み砕くとこういうことなのかもしれないと思いました。

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