私の周りの起業人・フリーランス④

今回紹介する起業人は、「パッチワークの先生」として知り合った女性の起業家です。

「趣味が高じて仕事になる」の典型かと思っていましたが、あらためて話を伺うとそこには、しっかりとした計画と実現に向けてのひたむきな努力がありました。

<パッチワークとの出会い>

学校を出て普通のOL生活を送っていたある日、職場の先輩がとても素敵なバッグを持っていました。

表地と裏地の間に薄い綿を入れ、重ねた状態で刺縫い(キルティング)したものをつなぎ合わせて(パッチ)作られた「パッチワークキルトバッグ」でした。

ご自分で作られたという話を聞いて、自分も欲しい、是非作りたいとの衝動にかられ、紹介してもらったパッチワーク教室に通い始めます。

「教室の先生がとてもセンスがあり、オンリーワンの面白さもあって、すっかりのめり込んでしまった」そうです。

元々はスポーツ好き、手芸は学校の家庭科で習って以来だったにもかかわらず、唯一長続きした趣味となります。

<教室立上げのきっかけ>

結婚して専業主婦となり、制作時間も充分に確保できるようになると制作意欲は益々高まり、数々の作品を制作しました。

そんな折知人から、トールペイントの展示会で、壁面が寂しいのでパッチワークで飾りたいという話を持ち掛けられます。

ここで飾られたパッチワークに魅了され、「このパッチワークを作った方に是非習いたい」と一人の女性が現れます。

既に講師資格も取得していましたが、他人に教えたことがなく躊躇したそうですが、実際に会って話をしてみると、とてもかわいらしい女性で、かつ全く針と糸を持ったことがない初心者だったこともあり決断。

自宅での1年間のマンツーマン教室がスタートします。

これまでは自分の楽しみでしかなかったパッチワークでしたが、真剣に、楽しそうに作品制作に取組む生徒を見て、「上手になっていく様が楽しい」「パッチワークの楽しさをもっと多くの人に伝えたい」と教える楽しさが芽生えて来ます。

やがて、生徒の友人、そのまた友人と口コミなどで希望者が増えたため、校区市民館を借りて本格的に教室はスタート。

パッチワーク教室がライフワークとなりました。

<起業へのステップアップ>

さらに教室が手狭になったため、公募で見つけた賃貸オフィスへの応募を決意します。

この応募に際し審査用に事業計画書の提示が必要ということもあり、商工会や協会などが主催する起業講座を受講して5年間の事業計画書を作り上げました。

こうして、起業家としての第一歩を踏み出します。

この事業計画の実現に向かって努力は惜しみませんでした。

「リボン刺繍」の資格を猛勉強して取得し、新たな教室を開講します。

もともとパッチワークとリボン刺繍を融合した彼女の作品への憧れから、その需要は見込まれていたのでしょう。

この教室が軌道に乗るのも時間の問題でした。

彼女が持ち合わせるマーケティングスキルの高さがうかがわれます。

5か年計画の年間売上、収支目標はこうして見事に達成されました。

<ショップオープン>

「教室で使う材料を提供できるようにしたい」

「オリジナル作品の材料をパッケージしたキットを作って販売したい」

次の5か年計画では、こうした思いを込めて、物販と教室を兼ねたショップを開店する目標をたてます。

この目標が彼女の覚悟でした。

銀行融資による資金調達を申込み、ショップとなる物件探しに奔走します。

店舗探しは特に苦労されたようで、不動産会社からの紹介だけでなく、自分自身でも足を使って随分探し回ったそうです。(趣味のマラソンが活きた?)

1年がかりでようやく売り物件の中古住宅を見つけます。

実は、いつも陰ながら応援をしてくれ、銀行融資の保証人を快く引き受けてくれていた、彼女には唯一の理解者だったお父様が、契約直前に他界し、融資話はとん挫しかけたそうです。

それでも無事融資に漕ぎつけ、苦労して見つけた物件を手に入れることができたのは、彼女の覚悟と熱意が周囲を動かしたからに違いありません。

「改装工事はスタッフと有志の生徒さん達と一緒にしました。いい思い出です。」と懐かしそうに話をしてくれました。

とてもおしゃれで、使い勝手の良さそうなショップで、すばらしいセンスです。

<手づくりの普及に>

その後も教室の内容はさらに拡充され、多くの講師も輩出しました。

現在も彼女の独創的なデザインやセンスに憧れて、教室への入会希望者は跡をたちません。

そして、その教室がどれほど楽しい時間を生み出しているのかも容易に想像できます。

最後にこんな言葉を頂きました。

「楽しいだけでは食べてはいけないです。スタッフさん達の人件費も考えていかないといけないですし。ただ収益だけでも続けてはいけなかったと自負しています。まわりのスタッフさんや永年来てくださっている生徒さんたちとの信頼関係が大切です。皆さんへの感謝を忘れずにこれからも手づくりの普及に努めていけたらと思っています。」

彼女の経営者としての理念が垣間見えました。

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